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現代ではインターネットを開けば、瞬時に膨大な情報にアクセスが可能です。ただ、これは非常に便利な一方で、「知りたい情報にたどり着けない」「どれが正しい情報かわからない」「あれこれ調べているうちに疲れてしまった…」といった「リサーチ疲れ」を感じている方も多いのではないでしょうか。ビジネスの企画、学校の課題、専門的な調査など、あらゆる場面で質の高い情報を見つけ、整理し、分析することは、時間も手間もかかる大変な作業です。
そんな情報収集の悩みを解決するために登場したのが、AIによる「Deep Research」機能です。これは、単に質問にパッと答える従来のチャットボットとは一線を画し、Deep Researchは、特定のテーマについてまるで人間のように自分で考え、インターネットなどから関連情報を探し出し、分析してまとめてくれます。
普通のAIチャットボットが即時応答を目指すのに対し、Deep Researchツールは数分かけてじっくり調査するのが特徴です(だいたい2~4分、時にはもっとかかることもあります)。
Deep Researchでは、具体的に以下のようなことができます。
これはまさに、AIが単に文章を作るだけでなく、「リサーチそのもの」を代行してくれるエージェントに進化していることを意味します。GPT-4などの高性能なAIモデルが、この進化を強力に後押ししています。複雑な調査タスクをAIに任せることで、私たちのリサーチ作業は劇的に効率化されます。
OpenAI (ChatGPT)、Google (Gemini)、Perplexity、Microsoft (Bing) といった主要なAI開発企業は、このDeep Research機能を積極的に提供し始めています。ただし、「Deep Research」という言葉は、特定の機能名だけでなく、AIの高度な調査能力全般を指す場合もあり、ツールによってできることやアプローチは少しずつ違います。ここが、ツールを選ぶ上で大切なポイントになります。
Deep Research機能を提供するAIツールは増えていますが、今回は特に代表的で、ウェブからの情報収集と分析に焦点を当てた以下の4つのツールを厳選しました。
これらは、ビジネスパーソン、学生、研究者など、幅広い人が多様なリサーチに使えそうな汎用性を持っています。現在のDeep Research機能の代表格と言えるでしょう。各社が自社の強み(OpenAIのモデル性能、Googleの検索力、Microsoftのサービス連携、Perplexityの応答速度など)を活かして開発しているので、そのアプローチの違いを中心に紹介していきます。
今回選んだ4つのDeep Researchツールを比べるために、以下の点をチェックポイントとして設定しました。
これらのチェックポイントを使って、それぞれのツールの特徴を様々な角度から比較します。
ここでは、選んだ4つのツールを一つずつ、さっきのチェックポイントに沿って掘り下げて見ていきます。それぞれのツールの特徴、強み、弱み、パフォーマンス、そして「こんな人にぴったり!」という利用シーンをご紹介します。
OpenAIが提供するAIチャットボットの有料版で、GPT-4oなどの賢いAIモデルを活用し、インターネット上の情報や、あなたがアップロードしたファイルをもとに、詳しい調査分析やレポート作成ができる「Deep Researchモード」を持っています。
調べたい内容を指示すると、ChatGPT Plusは自動で情報を集め、分析し、整理してレポート形式で結果を出してくれます。あなたが持っているPDFなどのファイルを分析させることもできます。
ChatGPT Plusの主な強みは、とにかく生成されるレポートが詳しい点です。複雑なテーマでも深く掘り下げた情報を提供してくれる可能性があり、ウェブ検索だけでなく、ユーザーがアップロードしたドキュメントの分析も可能なので、幅広いリサーチタスクに使えます。また、出典の正確さも高く評価されており、信頼できる情報源を優先的に使い、情報と出典元を明確に紐付けてくれる傾向があります。
一方で、詳しい分析を行うため時間がかかる傾向があり、報告によっては5分から30分ほどかかることもあります。有料プランでも、短い時間内のメッセージ数に上限がある点に注意が必要です。
スピードよりも分析の深さや出典の信頼性を重視する人、複雑なテーマについて詳細で信頼性の高いレポートが必要なビジネスパーソンや研究者に最適です。
GoogleのAIアシスタントGeminiの有料版(Google One AI Premiumなどに含まれる)です。Googleの得意な検索技術を活かし、さらに「どう調べるか」という計画を事前に確認・修正できるDeep Research機能を持っています。
複雑な質問を入れると、まずGeminiが「こんな順番で調べます」という計画を立てて提案。あなたはそれを確認して、修正を指示できます。OKしたら、計画に沿ってウェブを自動で検索・分析し、情報をまとめてレポートを作ります。
Google Gemini の大きな強みは、AIが調査を始める前に、立てた計画をユーザー自身が確認し、必要に応じて手直しできる点です。これにより、リサーチの方向性をより細かくコントロールできます。また、Googleの強力な検索システムを活用するため、幅広い情報源にアクセスできる可能性がありますし、Google Workspaceなど普段からGoogleのサービスを使っている人にとっては連携のしやすさもメリットです。
しかし、ChatGPTと比較すると、より広く浅く、全体像を示す傾向があるという指摘や、情報の網羅性・信頼性で劣るというレビューもあります。出典についても、たくさん集めるものの、質に差があったり情報との紐付けが不明確な場合があるようです。
自分でリサーチのプロセスを調整したい人、特定のテーマについて素早く全体像やトレンドを知りたい人、Google WorkspaceなどのGoogleサービスをよく使っている人に最適です。
AIを使った「質問応答エンジン」と呼ばれています。有料のProプランでは、Deep Researchを含む高度な検索機能が使え、素早く、しかも出典付きで回答してくれることに重点を置いています。
設定や質問の仕方によってDeep Research機能を使い、複雑な質問に対する答えを得ます。長いレポートというより、要点をまとめた短い回答に、必ず出典がついてくるのが特徴です。Proユーザーは、混んでいる時でも優先的に使えたり、応答が速くなったりします。
Perplexity Proの最大の強みは、その迅速な応答速度です。冗長なレポートではなく、要点を絞った簡潔な回答をすぐに得られる傾向があり、その回答には必ず出典が明記されることを重視しているため、情報の確認がしやすいです。また、学術論文データベースだけを検索対象にするオプションもあり、論文探しに特化して使うこともできます。
一方で、複雑な論理的な思考や、深い分析はあまり得意ではないという指摘や、提供される分析が表層的だと言われることもあります。出典についても、論文だけでなく一般的なウェブサイトなども使うことがあるため、質に差が見られる場合があります。
長いレポートより素早く出典付きの短い答えが欲しい人、最初の文献調査やちょっとした事実確認をしたい研究者や学生、スピードと出典の明確さを重視する人に最適です。
Microsoftの検索エンジンBingに組み込まれた機能です。GPT-4を利用してユーザーの検索意図を深く理解・展開し、通常の検索よりも広範なウェブインデックスを探索して、複雑な問いに対する包括的な検索結果を提供します。
特定の検索クエリに対して、検索結果ページ上部に「Deep Search」ボタンが表示されることがあります。ユーザーがこれをクリックすると、BingはバックグラウンドでGPT-4を用いてクエリを拡張し、考えられる複数の検索意図を特定します。その後、通常の10倍ともされるページ数を対象に検索を実行し、強化された検索結果ページとして提示します。
Microsoft Bing Deep Searchの強みは、GPT-4を活用してユーザーのあいまいな検索意図をより正確に理解し、複数の可能性を提示することで、本当に調べたい情報にたどり着きやすくしてくれる点です。また、標準的な検索よりもはるかに多くのウェブページを探索対象とするとされており、普段は見つけにくい情報も見つけられる可能性があります。
一方で、常に使える機能ではなく、特定の質問をした時にオプションとして表示され、自分で起動する必要がある点や、ChatGPTやGeminiのようなレポート形式ではなく、強化された検索結果リストに近い形式で情報が提供されるため、情報の整理度は低い点が弱みです。
普段からBingやEdgeブラウザをよく使っている人、調べたいことが漠然としていて色々な方向から情報を集めたい人、普通の検索では情報が見つからない場合に、より広範なウェブ探索を試したい人に適しています。
ここまで見てきた4つのDeep Researchツールを、横断的に比較して、主な違いをまとめてみましょう。
以下の表は、設定したチェックポイントごとに、4つのツールを比較したものです。
※上記の情報は、主に公開情報に基づくものであり、厳密なテスト結果ではありません。料金換算は 1ドル=155円で計算(記事執筆時点)。
これらの比較を通じて、各ツールが提供する価値とトレードオフがより明確になります。ユーザーは自身のニーズ(必要な情報の種類、深さ、速度、予算など)に応じて、これらの情報を活用し、最適なツールを選択することが推奨されます。
Deep Researchツールの選択は、特定の目的やタスクによって大きく左右されます。以下に、代表的なユースケースと、それに対応する推奨ツールおよびその理由を示します。
重要なのは、自身のタスクの性質(求める情報の種類、深さ、精度、速度、必要な出力形式など)を明確にし、それに合致する強みを持つツールを選択することです。場合によっては、複数のツールを組み合わせて利用することも有効な戦略となり得ます。
Deep Research AIの分野は急速に進化しており、今後もその能力と応用範囲は拡大していくと予想されます。注目すべき主要なトレンドと将来の展望は以下の通りです。
現在、多くのAIはRAGという技術を用いて、外部の信頼できる情報源を参照しながら回答を生成しています。将来的には、この技術がさらに進化し、企業の内部文書やデータベースといった独自の知識資産とシームレスに統合されることが期待されます。組織固有の文脈に基づいた、よりパーソナライズされ専門性の高いリサーチが可能になるでしょう。
AIモデルは、テキストだけでなく、画像、音声、動画といった多様な情報を理解・処理する能力を高めています。今後のDeep Researchツールは、これらのマルチモーダル情報を統合的に分析し、テキスト情報だけでは得られなかった新たな洞察を提供するようになる可能性があります。
AIが単なる情報処理ツールから、より自律的にタスクを遂行する「エージェント」へと進化する流れは、Deep Research分野でも加速すると考えられます。将来的には、より複雑な多段階の調査計画を自律的に立案・実行し、必要に応じて外部ツールを呼び出すといった高度なエージェント能力を備えるようになるかもしれません。
生成AI技術の急速な発展に伴い、各国でその利用に関する規制やガイドラインの整備が進められています。これらの規制動向は、AIモデルの開発、データの利用方法、透明性の確保、バイアスの低減といった側面に影響を与え、Deep Researchツールの機能や利用条件にも変化をもたらす可能性があります。
これらのトレンドは、Deep Research AIが今後、さらに強力で多機能なリサーチパートナーへと進化していくことを示唆しています。一方で、AIの自律性が高まるにつれて、生成される情報の信頼性、潜在的なバイアス、そして人間による適切な監督と判断の重要性といった課題も、より一層注目されることになるでしょう。技術の進化とともに、その責任ある利用方法についても継続的な議論が必要です。
この記事で一番伝えたいこと
この記事で提供した比較分析や評価フレームワークが、読者の皆様にとって最適なDeep Researchツールを見つける一助となれば幸いです。